第23回市民科学研究会 開催報告

2019年12月15日(日)に,第23回市民科学研究会「マイクロプラスチックから市民科学を考える」を開催しました.

市民科学研究会は,(一社)生物多様性アカデミー(BDA)の研究会として位置づけられており,市民科学や市民参加型調査に関する情報共有,プロジェクト研究など,市民科学の展開に関するテーマについて自由闊達な討論を行っています.
*なお次回の市民科学研究会は3月21日(13時~16時)に「SDGsを市民科学で促進する」をテーマとして東京都市大学夢キャンパス(二子玉川)にて実施予定です.ぜひご参加ください.
 
 
 

今回の市民科学研究会は,台風19号の影響を受けて期日を延期しての開催となりましたが,30名ほどの会員と学生,当研究会の活動に興味関心を持たれた方に参加いただきました.
 

研究会では,最初に開催挨拶に代えて生物多様性アカデミー代表の小堀洋美代表理事(東京都市大学特別教授)よる市民科学の最新情報の共有がありました.続いてマイクロプラスチックやプラスチックごみを対象として,市民科学に取り組んできた実践事例をもととした講演,パネルディスカッション,ワークショップが行われました.

小堀代表による市民科学の最新情報として,Natureに掲載された報告(Irwin, 2018)が紹介されました.日本発の国際的市民科学プロジェクトとなる原発事故後の大気中放射能測定プロジェクトの事例,ベルギーにおけるストリートサイエンスプロジェクトなどの事例を紹介したうえで,市民科学の意義と課題を論じました.プロジェクトに多数の市民が参加していること,政治の意思決定に市民科学が影響を及ぼしていること,政府や国際機関の日常業務に市民科学が取り入られていることなどが今日的意義として挙げられました.他方で,参加者の拡大やデータ品質の問題,倫理やデータ,プライバシーといった市民科学の課題に取り組む必要性があることも指摘されました.本報告は,だれもが科学に参加できるだけでなく,その科学的活動が社会や政治に及ぼす影響を持ちつつあることを確認する機会となりました.

小堀氏による市民科学の最新情報の共有

 

続いて,第1部の「実践事例から学ぶ」では,マイクロプラスチックを題材に市民科学プロジェクトを実践している亀山豊主席研究員(BDA)と今村和志氏(NPO法人荒川グリーンエイド・フォーラム事務局)の講演がありました.

亀山研究員は,「市民科学からフォーカスした海洋環境におけるプラスチック廃棄物」と題して,マイクロプラスチックとは何か,データ収集・精度の確保,市民が参加しやすい体制などを自身の経験を基に報告がありました.コドラート法による調査手法のレクチャー,100円均一店のみで調査器具を作成する,など市民が科学研究にかかわりやすいようにオリジナルなメソッドを開発しているとのことです.また,マイクロプラスチック問題が話題となりつつあるなかで,プラスチックの性質をまずよく理解することや,プラスチックを悪者とするのではなく賢い利用を行うべきといったアドバイスがありました.

海岸に流れ着くプラスチックゴミを市民と調査するプロジェクトを実践している亀山氏

 
今村氏の演題は,「『調べるごみ拾い』って何?その結果と意義」で,ごみがどのように流出し,どこへ向かい,どういったリスクを生み出しているか,我々に何ができるのかを,ローカルからグローバルなスケールでお話していただきました.街ごみの一部が河川を経由して海洋に流出し,生物濃縮や他国への漂着が起こりつつあると言われています.今村氏は,荒川でのごみ拾い,調査,可視化を市民科学プロジェクトとして実践してきた実績・経験と,ごみ回収を行ってもすぐに新たなごみであふれてしまうこと,取り残してしまうごみも多数あるなどの課題も報告されました.過剰包装の是正などによる発生源対策に加え,海洋に流出する前に早い段階で回収することの重要性を訴えました.

荒川にてごみを回収・調査・可視化する市民科学プロジェクトを行っている今村氏

 
続く第2部では,東京都市大学環境学部4年生の渡部香乃さんと渡邊華音さんの「相模湾海岸域の漂着マイクロプラスチックに関する研究」に関する報告が行われたのち,小堀氏,今村氏,咸泳植氏(東京都市大学環境学部准教授)によるパネル討論が行われました.マイクロプラスチック問題について,ごみが流動するメカニズムやトレーサビリティなど,多数の研究課題が残されていることや,モニタリングによるデータの蓄積と可視化が重要であることが議論されました.また,市民がインセンティブを持てるように,市民科学の楽しさや,データのアウトリーチを明確にする取り組みが大切であることも指摘されました.マイクロプラスチック問題解決のためには具体的かつ段階的な戦略を作っていかないといけない,そのために市民科学が活用できるかもしれないとの議論がありました.

漂着するマイクロプラスチックの由来を調査している渡部氏

パネル討論にて質疑に答える今村氏

 
第3部では2つのワークショップを実施しました.最初のワークショップは「比重からプラスチックの成分を知る」です.参加者はエタノール(比重0.789),水(1.0),3.5%海水(1.025),飽和食塩水(1.19)など比重の異なる溶液にプラスチックの成分が分かっている標準サンプルと海岸から採取した成分不明のプラスチックの小断を入れ,サンプルの浮き沈みからプラスチックの種類を調べました.次に「スマホ+マイクロ顕微鏡でマイクロプラスチック」を実施し,各自のスマホに脱着できるマイクロ顕微鏡を用いて,相模湾の海岸で採取したマイクロプラスチックを観察しました.最後に,マイクロ顕微鏡の開発者である永山國昭氏(Life is small. Project (LISP))より新たなマイクロ顕微鏡の開発について報告をいただきました.2つのワークショップは簡単な実験でしたが,マイクロプラスチックの成分を調べ観察する研究プロセスの一部を体験する機会となりました.

4つの溶液にサンプルを落としていきます

ワークシートに記録していきます

実験中のようす

 

マイクロプラスチックは,生物への影響や景観の悪化などグローバルな問題でもありますが,同時にごみを排出する個々人の問題でもあります.他方,データのトレーサビリティのなさやビッグデータを扱うための研究においても,不明な点が数多く残るトピックでもあります.この研究会を通じて,市民がごみを拾い,調査し,分析し,データとしてまとめる市民科学プロジェクトは,一人ひとりの理解,排出削減,早期回収,データの科学的研究を可能とすることで,社会,教育,科学に大いに貢献していることを共有しました.

マイクロ顕微鏡を紹介する永山氏

永山氏が開発したモバイル顕微鏡

多くの方々に参加していただきました

亀山氏のポスターを議論する小堀氏と咸氏

 
次回の市民科学研究会は3月21日(13時~16時)に東京都市大学夢キャンパス(二子玉川)にて実施予定です.ぜひご参加ください.

 
*Irwin, A. 2018. No PhDs needed: how citizen science is transforming research. Nature 562: 480–482.

(記録:岸本慧大(BDA研究員))